teacup. [ 掲示板 ] [ 掲示板作成 ] [ 有料掲示板 ] [ ブログ ]

 投稿者
  題名
  内容 入力補助画像・ファイル
    
[ ケータイで使う ] [ BBSティッカー ] [ 書込み通知 ] [ 検索 ]


うだつの上がらない男とさかしまの女

 投稿者:川井  投稿日:2015年12月 2日(水)22時36分33秒
   第三金曜日の23時には決まって窓が鳴る。
 トントンと遠慮がちに、窓が鳴る。
 窓を開けなければ六度それが続いて、七度目はない。
 それが二人の間での取決め。
 秘密の取り決め。
 もう10年も続く誰も知らない二人だけの取り決め。

<center>うだつの上がらない男とさかしまの女</center>

 部屋のドアのすぐ隣にある廊下の突き当たりの窓のサッシを開ける。この窓のサッシは古いので開けるとからから音がするので慎重にゆっくりともどかしく。
 窓の向こうにはつなぎをだらしなく着崩した彼が居て、窓が開き切るのをまだかまだかと子犬のように待っている。
 いつみてもその表情がいじらしくて私の嗜虐心を大層擽るので、私はいつも焦らすようにゆっくりと窓を開けるのだ。
 「今日はチョロ松がうるさくて撒くのに苦労したよ」
 木の上で折り畳んでいた身体を滑らせるように窓のこちら側へ伸ばして音も無く廊下に降り立つ。
 私が窓を静かに閉めて(ただし鍵は開けたまま)部屋へ入るように促すと、後ろから抱き留められた。
 「……いい香り」
 「銭湯から直接来たからね」
 なるほど彼の身体がポカポカと温かいのはそういうわけか。
 顎を上げるように頬擦りすると思ったよりも上気した彼の首筋がすり付けられてゾクゾクした。
 「汗かいてる」
 「走って来たもん」
 ざりざり耳元で髪が擦れてうるさい。
 「ダメ、こんなところじゃ」
 言葉でだけそう言ってはみたけれど、筋肉はそんなふうに動かずにされるがまま。じりじりと彼の足が絡んできて、右手を封じられながら唇を奪われた。
 情熱的ね、小学校の頃から変わらない。
 自分の思うとおりにならないと癇癪を起すの。……私達ったら似た者同士で嫌になっちゃうわ。
 短く鋭く唇が吸われる。まだ舌は動かさない。ただただ、待ち遠しかった、寂しかった、物足りなかった、これから埋め合おうねという軽い会話のようなキスが降ってくる。頭を撫で合うみたいな、握手のような、ハグにも似た、キス。
 とろりと蕩ける瞳で窓の外に目をやると、そこには彼にそっくりな彼の弟が街灯の下で呆然と立ち尽くしているのが見えた。兄が居なくなったのを探しに来たのかも知れないし、彼の趣味の猫集会見学の行き品なのかもしれない。
 ずっと誰にも見つからずに上手くやって来たのに、こんな事ってあるかしら。
 でも私は自分にしがみ付いてる彼のキスがまだづついているから、封じられていない左手の人差し指をキスが終わらない口元に近づけて『ナイショにしてね』のポーズをしてからカーテンを引いた。



つづくよ!
 
 

レンタル掲示板
/2