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○向日葵といふ人望に似たるもの
これは文句なしに名句です。
○夕焼を二秒望んで遮音壁
リニアモーターカーとか新幹線とかでしょうか。「二秒」が効いていますね。
○餞別にハンカチーフを所望せり
若い頃は歌詞を鑑賞する能力がありませんでした。松本隆が「ハンカチを下さい/ハンカチを下さい」のように結句を繰り返すのはポール・サイモンの影響だと何かで読んだような気がします。
○みつ豆の本家本郷三丁目
本郷三丁目の交差点にどんと和菓子屋があったなと検索したのですが、それは三原堂という最中や煎餅を売る店で、みつ豆の本家ではないようです。「蜜豆をギリシャの神は知らざりき 橋本夢道」という句があったなと検索したら、「銀座の汁粉屋「月ヶ瀬」で、蜜豆やあんみつを商品として開発・提供したのは、この夢道だった」というスピカの記事がヒットしました。さて掲句ですが、考証はさておき、「本家本元」を下敷きにした「本家本郷…」という語呂合わせが効いていて勢いがありますね。
○故郷には姉と白犬合歓の花
なんともソフトバンク的な故郷ですね。
○同郷や薬味論議の冷奴
故郷は豆腐が名産で、それをどう食べるかで持論が分かれているのでしょうか。
○夫婦なら故郷は二つ遠花火
幼なじみとか同級生とかを考えると、この故郷は単に地理的なことを言っているのではない、伴侶とはいえ決して共有することはできないこころのふるさとのことをいっているのかもしれません。「遠花火」が哀切です。
○あるだけの山百合抱いて逢ひに行く
生きているうちに逢いに行って下さいなどと、「ある程の菊投げ入れよ棺の中 漱石」を思い出しては感じるのです。
○山ほどの足跡のある夏座敷
賊に襲われたのだか、ガサ入れがあったのだか…。
○やませ吹く河童と僕と橋桁と
「河童と僕と橋桁と」の郷愁がいいですね。
○河童来てシャワーを貸してくれと言ふ
助けてあげたい気もするのですが、元気を回復するやいなや尻小玉を抜かれそうな気もして、できればそんな状況には遭遇したくないですね。
○白南風や運河に貿易船満ちて
明るさに満ちた気持ちのいい句ですね。撥音や長音があるので中八も気になりません。
○夜を喰らひ夏の河口は膨れけり
これはシュールですね。
○おおぞらやアイスの棒の捨て処
大空に向かって投げたのでしょうか。どうでもいいのですが、駅のホームの自販機で売っているアイスを食べ終わって包装の紙と芯のプラスティックを販売機備え付けのごみ箱に捨てようとしたとき、大抵あふれかえっていませんか。
○もどりきて我に席なしなすび漬け
宴会あるあるですね。トイレから戻ると自分が座っていたところに別の人が座っていて、しょうがないので別の席に座って話し込んでいると、追加注文の漬物が来て、戻るに戻れず「すみません、私のお箸とお皿をとってくれませんか」みたいな展開となるという…。
○丸窓の向かうを過ぎる水海月
豪華客船の旅でしょうか。
○紫陽花の触つてみたき固さかな
これは曰く言い難いところを捉えていますね。
○甚平や画数多き名を持ちて
壽範とかそんな名を付けられてしまったのですね。
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